VC界の第一人者佐藤真希子さんの、家族と自分の笑顔を基準に選んだ道
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- 佐藤 真希子 投資家
株式会社iSGSインベストメントワークス、代表取締役 代表パートナー。2025年から株式会社SHONAIの戦略投資部門と地方と都心部を複業人材で繋ぐ株式会社XLOCALを兼務。2000年に新卒1期として入社した株式会社サイバーエージェントでの経験を経て、独立系ベンチャーキャピタルを2016年に日本初の女性パートナーとして立ち上げた。上場企業の社外取締役を2社つとめ、堀江貴文氏と共に起業家ピッチ番組に出演したり、地方や女性起業家支援の講演会などその活躍は多岐に渡る。2022年『Forbes JAPAN』「日本のVC業界で活躍する女性15人の1人」に選出。3児の母。夫も起業家。
目次
様々な世界で、自分らしく豊かなオトナ時間を生きる女性たちに、その生き方のヒントを伺うインタビュー連載。今回は、投資家・佐藤真希子さんの登場です。
日本のVC(ベンチャーキャピタル)業界で活躍する女性の第一人者として、華々しいキャリアを築く佐藤さんですが、その裏では、迷い悩む時間も過ごしてきたそう。明るい笑顔と、大らかな人柄が魅力的な佐藤さんですが、どんなリニューアルを重ねて今に至ったのか、その物語を聞いてみたいと思います。
女性初の管理職。ファーストペンギンと言われながらも、その後9年間昇進しなかった過去

ー佐藤さんと同じ氷河期世代です。サイバーエージェントで順調にキャリアを築かれた姿はとても眩しく感じますが、その後なぜ独立しようと思われたんでしょうか?
私たち世代は本当に就職に苦労しましたよね。募集も少なく、何社落とされたことか、、。そんな中、当時社員数が25人程度だったサイバーエージェントの存在を知り、「こんなに若い人たちががむしゃらに働いている会社が伸びなかったらおかしい!」という期待を胸に、門戸を叩きました。みんなが熱狂して働いている環境なら、楽しく働けるんじゃないかなと思ったんです(笑)
サイバーエージェントでの仕事は、インターネット広告黎明期だったこともあり、エキサイティングでした。無我夢中で取り組み、自分自身のパフォーマンスだけでなく自分自身が組織に対して何ができるのかを考え行動していたら、営業部門の女性初の管理職になることができました。当時では、ある意味ファーストペンギンだったと思います。けれど私はまだ25歳で、自分がマネジメントをされた事も、女性の管理職も見たこともなく、どうしたらいいのかわかりませんでした。
その後、子会社にて新規事業の立ち上げを経験し、その後ベンチャーキャピタルという、スタートアップ企業を対象にした投資事業へ異動しました。そこで経験を積む中もも、女性キャピタリストは稀有な存在でした。そんな中、登壇の機会も増え、「女性キャピタリストと言えばサトマキ」と言われるような、業界内での存在感を出すことはできたかもしれません。
ただ、組織の中で、思うように自分のキャリアを築けていたとは言えませんでした。毎回の査定の度に求められる、完璧な男性キャリア像。それに当てはまらないとダメ出し。「出来ない部分を、できるようになるまで昇進はさせられない」という指摘に、いつも悔しくて号泣していました。当時はまだ男性同様の働き方、マネージメント、業界の完璧なリーダー像が求められていたのです。3人の子供を出産し、夫も起業した事もあり、自分のキャリア、母として、妻しての時間的な制約や体力の限界も感じていました。
そんな時に、キャピタリストの同期の集まりがあったんです。彼らは、すでにそれぞれの会社で社長やGPと言われるVCでのトップの役職についており、責任のある仕事だけでなく、当然、報酬も桁違い。そこではたと気づいたんです。自分は自分自身がサイバーが好きで仕事にやりがいを持って働いていれば良いと思っていたのですが、昇進・昇給をしない=会社に評価されていない、ということなのかも、、と。
ところが、ある日、、”1日スナックのママ”をやってみたんです。そうしたら、お店に入らないくらい起業家やVCの方にきていただくことができ、そこで信頼する方同士をお繋ぎしていたらすごく感謝されたことが小さな自信となりました。加えて、尊敬できる方に相談したりし、家族の後押しもあり、「じゃ、辞めようかな」ってなりました(笑)。
私もそうでしたが、女性はやりがいを大事にしがちで、自分の価値に気づいていない人がとても多いなと感じます。ですから、自らの価値に、自ら気づくことが第一歩なのかもしれません。
女性のいない世界に飛び込み掴んだキャリアの成功と転機
ーそのような境遇から、今や、日本を代表するベンチャーキャピタリストになられました。
ありがたいことに、講演会に呼ばれたり、賞をいただいたり、過去には日本ベンチャーキャピタル協会理事も務めさせていただいたりしました。人の挑戦を応援することが大好きで、この道を邁進してきた私にとっては、とてもありがたいことです。
最近は優秀な女性ベンチャーキャピタリストも増えてきました。それは、業界としてダイバーシティ&インクルージョンを推進してきた立場としても、とても嬉しい事です。一方で「そろそろ私の役目は一旦終わったのかな」という気持ちも生まれてきたのも事実でした。
更年期や内省を通して自分に向き合い、「 子供の未来へ貢献したい!」というピュアな想いへ
18年という長い時間をベンチャーキャピタリストとしてやり続けることができたモチベーションの根底には「子供たちが大きくなった時、少しでも希望を持てる良い日本にしたい」という思いがあります。そのために、社会課題を解決するようなスタートアップ企業や起業家を応援してきました。ですが、昨今、若者の自殺率は高まっていてどんどん日本が貧困化している現実もありますよね。
同時に、地方には、まだ見出されていない日本の宝が沢山あり、希望です。それを支援する事で結果的に日本全体がハッピーになれるのでは、と確信する機会があり、現在は、地方に想いがある都心部にいる人材を、成長意欲の高い地方企業マッチングしているXLOCALの取締役をしています。日本には、大変な課題は山積していますが、次の10年は、地方支援にコミットしていきます。
ーさすがベンチャーキャピタリストらしい、視座の高さとポジティブ思考ですね
いやいや、実はそうでもないんですよ。ここ3年間は本当に悩みに悩みすぎて、若年性更年期っぽい症状が出て急にものすごい熱くなって汗をかいたり、3人の子供たちが家から離れたこと(海外留学・国内留学)もあり、意外と早いタイミングで夫婦としてこれからどう生きていくか等ものすごい話し合ったりしてこれからの人生について考えました。ウェルビーイングを軸にしたラッセルコーチングカレッジでコーチングを学んだこともあり、「問い」により内省がすすみ、自分自身がどうして良いかわからなくなったり。
「Q.自分が死ぬ時、誰に手を握っていてほしいですか?」
「Q.お葬式の時に、みんなにどう言われたいですか?」
のような様々な問いを、相手のみならず自分自身に投げかけることになり、改めて自分の価値観を深く見つめ直すようになりました。
子供が家にいない状況で問い直した、夫婦とは?仕事とは?
ーそれは深い問いですね! その後、ご夫婦にどのような変化がありましたか?
うちは子供たちが留学などで家を出ているので、今は夫婦二人の生活。それに、お互いに経済的自立をしています。その上で、「これから先どういう夫婦でいたいか」「どういう生き方をしていきたいか」「一番大切にしたいものは何?」もっと突っ込んだところでは「お互いを大切に思えない関係になるくらいなら、家族であっても一緒にいなくてもいいのではないか」とか…。夫も話し合いに向き合ってくれまして、10数年前に、夫が起業する前に2人で決めた家族のビジョンや目標、夫婦の関係を、今一度アップデートしたんです。
おかげで、最近は夫が私の仕事の状況を理解し、家庭面ですごく協力・サポートしてくれるようになりました。娘も、パパが最近変わったよね!と、とても嬉しそうで、夫には本当に感謝しています。
よく「子供たちがいなくて、夫婦ふたりで寂しくないの?」と聞かれますが、もちろん、子供たちが家にいないのは寂しいですよ!(笑) でも、子供は子供の人生で、彼・彼女らが選んだ道でもあるので、むしろ良かったと思っています。夫婦二人の時間も増えましたし、家族の関係も良くなったと思います。離れていても、私の仕事のモチベーションは間違いなく「子供たち」です。これからも、子供たちが生きていく世界が、少しでも良いものになるように!と願いながら働き続けていくと思います。
女性のキャリアは22歳では遅いのかも!?
ー女性のキャリアについての考えを教えてください
女性は、組織において子供を産んだ瞬間にキャリア構築が難しくなることが、まだまだ現実にありますよね。たくさんの経営者を見てきた私が最近思うのは、女性は22歳からキャリアをスタートするのでは少し遅いのかもしれない、ということです 。22歳から仕事を開始して数年たち、昇進するタイミングで結婚・出産のタイミングが重なってしまう事が多いように思います。自分の実績やポジションを早期に構築する必要があるということで、女性のキャリアは20代で早まきで構築するべきだと言ってきたのですが、最近ちょっと遅いなって感じはじめているんです。
例えばですが、18歳から起業をしてスモールビジネスでもいいので固定給を得られるような経験ができたら 、その後就職しても副収入がありますし、会社に入った時にもある程度の肩書きをすぐに持てるポジションにいけるかもしれません。 このように、よりしなやかで自由な選択が、これからの時代には必要です。娘たち世代だけでなく、私たち世代にも、柔軟なキャリア・生き方に対する思考は大切ですよね。
ーそんな佐藤さんを支える言葉は?
現オイシックス・ラ・大地株式会社、代表取締役社長・髙島宏平さんから学生ベンチャーで働かないかと声をかけてもらった時に言われた言葉です。「やりたいと思うなら時間は作るものだよ」と。当のご本人は、当然覚えていらっしゃらないですが(笑)今も大切にしている言葉です。
やりたいと思うなら、時間は作るもの
アクティブな佐藤さんの毎日を支えるアイテム
撮影/古谷利幸
モデレーター/田口まさ美
エディター/藤木広子